No.43「風の形」
「風の形」について

この版画作品(シルクスクリーンプリント)は1985年の「つくば国際科学技術博覧会」の西のガレリア(風のガレリア)に設置した望月菊磨作「CLOUD BALOON」を版画にしたものです。


当時、主に金属で作品を制作していた私には「大きな作品を作りたい」という夢がありました。しかし、大きな作品を金属で作るには莫大な費用がかかり、個人の経済力ではそれを賄うことは不可能でした。それでも夢をあきらめきれず、試行錯誤の結果たどり着いたのが「空気を利用すること」でした。


それは、化学繊維の布を袋状に縫製したものに空気を送り込んで成形する方法で、空気膜構造と言われるものです。膜の内部と外部にわずかな空気圧を生じさせて成形するもので、小電力の送風機で大体積の成形が可能だったのです。一度膨らんだ形は、人が乗ってもビクともしないくらいの強度を実現できます。この方法は建築にも利用されており、東京ドームはその代表的なものです。


つくば博の「CLOUD BALOON」は、雲状に縫製した布に小型の送風機を組み込み、ガレリアの中央部に吊り下げて膨らませ、大きな黄色い雲が浮かぶ状態を作り、下の商業施設に賑わいを演出するものでした。


半年間の博覧会が閉幕して、作品は撤収されることになりましたが、このような大作を維持、保管することは個人ではとても困難なため、作品は廃棄することになりました。永年にわたって制作した作品は、それぞれの作家が所蔵するとなると膨大な量になるため、やむなく廃棄される例は多々あります。


そのような作品の記憶を残す方法には図面、模型、写真、スケッチなどがありますが、私は写真と版画という方法でこの作品を残すことにしました。その一点がこの版画作品なのです。


作品解説:
彫刻家望月 菊麿