最近でこそヒーリング・アートの存在が知られるようになり、医療施設に美術作品を設置する例が多くなってまいりましたが、東葛クリニック病院が医療サービスの一環として始めた30年以上前は、まだ珍しかったのです。これまでにない新しい作品で快い刺激を受け、元気を出していただくことがヒーリング・アートの役割と言えます。
ではなぜ、見慣れない現代アートの作品が多いのかといいますと、つい私たちは、今すぐ判る事を求めたり、それによって安心したりしますが、この世の中は実は、前の世代から引き継いだ価値観と、次の世代の人たちが用意している価値観が混ざり合って成り立っています。そして、時代は常に変化し、進化しています。
そこで院内の美術作品を選ぶときは、少し前の世代の人たちには心地よい刺激となり、今の世代の人には確かな未来を感じさせ、次の世代の若い人たちにはいずれ当たり前となるような最先端の作品を、と考えています。
ところで皆さんはすぐ、作品の「意味」を考えると思います。それでたちまち「難しい」と考え込んだりすることになります。
ある美術評論家は次のように言っています。「ネクタイを選ぶとき(ネクタイは抽象模様が多く、さながら現代絵画のようです)プリントされた柄の意味を考えるよりは、好きか嫌いか、あるいは自分に似合うか似合わないかで選ぶでしょう。美術作品も同じことで、最初に作品に接したときの気持ちで見ればよいのです……」
絵の上手下手、良し悪し、可能性があるかないか、何を表現しているか、などといったことは、その後で考えればよいことです。問題はその絵が「好きか嫌いか」、これに 尽きるような気がします。そして好きになった絵こそが、最も心にやさしさを与えてくれるのだと思います。
東葛クリニック病院と関連の透析施設には、実にさまざまなタイプの作品が用意されています。来院されるわずかな間だけでも、アートを楽しんでいただければ幸いです。